黒板やガラスをひっかいた時の音
教室で黒板を消していると、不意に爪や黒板消しの硬い部分が当たって「キーッ!」となることがある。
聞いただけでぞっとして、思わず鳥肌が立ってしまうという人も多いのではないだろうか。
そのため、いたずらでわざとする先生や生徒に対しては非難轟々でもしかたないが、そのつもりがなくても、たまにそうなってしまうのは困りものだ。
他にもいろいろな生活音があって、それぞれに「好き」と言う人と「嫌い」と言う人が分かれるものだ。
ところが、黒板に爪を立てて引っ掻いた時に出るこの音は、ほとんどの生徒が不快な表情をする。
同じく、ガラスを引っかいた時にも同じような音が出るし、発泡スチロールをこすり合わせた時にもわりと近い(?)音が出る。
実はこの音、音響学的には人間の90%以上が本能的に不快感を覚えるという。
その理由にはいくつかの説があるが、そのいくつかを紹介しよう。
黒板をひっかいた時の音に不快感を感じる理由
1つは、人間がまだ進化する前の猿だった頃の名残だ。
動物は身の危険を感じた時に、それを群れの仲間に伝えるために警告音を発する。
動物園などでも、猿の鳴き声は聞いたことがあると思うが、敵意や危険を感じている時の声は「キーッ」と似たような音だ。
人類の祖先が発していた警告時の声紋と、黒板の「キーッ」が似ているため、反射的に不快感を覚える・・というのが1つ目の説である。
もちろん、これが絶対というわけではなくて、他にもいくつかの説がある。
- 黒板やガラスの「キーッ」には、人間が聞き取れない高周波の音が含まれており、それに対して防衛反応が働いている・・という説
- 「キーッ」には様々な音が混在しているため、音の波形も乱れており、それを耳が受け取ると脳が不快なものとして判別してしまう・・という説
- 脳内で音声を処理する聴覚皮質(大脳皮質の一部)と、怒りや恐怖といった感情に関わる扁桃体の間に強い関係性があるため、特定の音が不快な感情に直結するという説
- 人類がまだ野生生活を送っていた頃、またはもっと前の進化する過程で、捕食者のような敵対する生物が発する声に似ているから・・という説
などなど、いろいろなことが言われている。
黒板をひっかいた時の不快音に関する科学
ちなみに、こうした不快感を覚える音声は、周波数にしておおよそ2000-5000ヘルツの間にあるという。
この範囲の音は、人間が知覚しやすいため、たとえ音量が小さくても聞き取れるという性質がある。(逆に、この範囲を外れるほど、音を大きくしないと聞こえにくくなる)
それもあって、初期の携帯電話のベルには、この範囲の周波数の音がよく使われていたそうだ。
また、男性の話し声が500ヘルツ、女性の話し声が1000ヘルツ、ソプラノの歌手の歌声が2000ヘルツであることから、かなり高めの音であることは分かるだろう。
ついでに、夏になるといかにも耳について離れない・・どころか、近くにいると他の全ての音をかき消してしまう「蝉の鳴き声」は4000ヘルツだ。
いかにこの音域が、人間の耳が最も敏感に反応する周波数帯であるかがよく分かるのではないだろうか。
最後に、黒板を引っかいた時に出る音に関する、面白い研究を発見した。
その名も「黒板を爪でひっかく時に出る寒気がするほどの不快音の研究」と、まさにそのままである(笑)
内容も面白く、少々長い文章(PDFファイル)だが、興味のある人は一読されたい。
ここでは、特に気になった部分の要点だけ、軽く触れておく。
- 黒板を爪でひっかく音を構成する周波数の最大部分が5800ヘルツ付近だったが、この音が直接的な原因ではなかった。
- 1000-5000ヘルツと、5800-7000ヘルツの2つの範囲の音が不快感に関係していた。(これは従来の「1000-5000ヘルツだけが関係している」という研究結果とは異なる結果だった)
- 10000ヘルツ以上の音が消えると不快感も減ることから、10000ヘルツ以上の音にも不快となる原因が含まれている。
なお、最後にある今後の展望のところには「理想的な不快な音を作る」というパワーワードは、思わず二度見してしまった(笑)
こんな黒板やガラスのひっかき音、好きだという人はいるだろうか?