日本人が大好きなうなぎの蒲焼き。
今ではすっかり高級品になってしまい、うなぎ自体が絶滅の危機にあるという困ったことになっている。
それなのに、なぜかスーパーやレストランへ大量に出回るという謎すぎる状況もあるが・・・。
うなぎと言えば、土用の丑の日
さて、うなぎの蒲焼と言えば、「土用の丑の日」が有名だ。
土曜の丑の日とは、夏の土用の期間中に十二支が丑になる日のことで、毎年おおよそ7月25日くらいになる。
しかし、うなぎの旬はもともと秋から冬で、夏は旬から外れる上に、蒲焼きは味が濃くてこってりしていることもあり、暑い夏にはあまり人気がなかった。
それではどうして土用の丑の日が定着したかと言えば、夏に売れなくて困ったうなぎ屋が平賀源内に相談に行ったところ、
- 丑の日だから「う」のつくものを食べると縁起が良い
- 古くから精のつく食べ物として知られていたため、暑い夏を乗り切るのにも最適だ
というのを理由に、「土用の丑の日」をキャッチコピーにするように言われ、そのとおりにしたら大繁盛して売れるようになった・・・という説が有名だ。
もちろん、これはあくまでも説であり、根拠の無い嘘だったという説もあるが(笑)、江戸時代の同じ頃にうなぎを食べる習慣が大きく広まったのは事実のようだ。
うなぎと言えば、秘伝のタレ
そういった背景もあり、江戸時代から連綿と続くうなぎ屋さんというのも結構あって、100年以上の歴史を誇るようなところもざらだ。
そして、こうした老舗では、創業以来の「秘伝のタレ」があるもので、つまり100以上も同じタレを使い続けていることになる。
しかし、そんなに長い間使い続けて、なぜ腐ってしまわないのだろうか?
腐らない理由の1つは、塩分と糖分がとても高いこと。
実は、塩分では10%以上、糖分では65%以上になると、防腐効果があるとされている。
・・・と言っても、秘伝のタレはさすがにここまで濃くはないから、「腐らない」ではなく「腐りにくい」といったところだ。
理由のもう1つは、低温殺菌の効果。
一般的な牛乳は120度以上で3秒間の「高温殺菌」が行われているが、中には35度前後で30分程度の「低温殺菌」が行われているものがある。
これと同じく秘伝のタレも、何度も何度も煮込んだり、焼きたてのうなぎをつけ込んだりすることで温度が上がり、低温殺菌の状態になるというわけだ。
ちなみに、秘伝のタレは100年前と同じ味だとしても、中身まで全く同じわけではない。
何しろ、タレは使えば減るわけで、もともとあったタレは、新しいうなぎにつける度にどんどん目減りしていく。
そうすると、次々と新しいタレをつぎ足す必要があるわけで、つまりその度に古いタレが新しいタレに入れ替わって(置き換わって)いくことになる。
実際にどれくらいで置き換わるかと言えば、毎日毎日つぎ足していくと、1ヶ月もすれば全てが入れ替わってしまう。
一見すると全く同じタレだが、原子や分子のレベルで見たら、実は全くの別物になっているわけで、これでは腐る暇がないというのも理由の1つと言えるだろうか。
うなぎの歴史
ちなみに、奈良時代の歌人として有名な大伴家持が詠んだ次の歌が、万葉集の中に収められている。
「石麻呂に われ物申す 夏痩に 良しといふ物そ 鰻取り食せ」
(いはまろに われものまをす なつやせに よしというものそ むなぎとりめせ)
意味:石麻呂に私は申し上げたい。夏痩せによいというものですよ。鰻をとって召し上がりなさい。
実は江戸時代どころか、奈良時代のはるか古くから、「夏バテにはうなぎを食べよう」と言っている記録が残っているわけだ。
土用の丑の日とは関係ないですが、平賀源内よりもはるか前に同じことを言っている人がいたというのは、温故知新を感じさせる話だ。